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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)3094号 判決

控訴人

西川省二

西川都子

右両名訴訟代理人弁護士

石川寛俊

被控訴人

福井隆男

右訴訟代理人弁護士

河内尚明

矢野和雄

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ七九三万〇一六七円及びこれに対する昭和六〇年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ二六一五万五〇五七円及びこれに対する昭和六〇年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

原判決の「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決五枚目表八行目の「右過失」を「右一、二記載の過失」と改める。

第三  証拠〈略〉

第四  当裁判所の判断

当裁判所は、控訴人らの請求は、後記認定の範囲で正当であると判断するが、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決の理由欄一ないし三記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一六枚目表七行目の「第三号証、」の次に「弁論の全趣旨により成立の認められる〈書証番号略〉」を、同七行目から八行目にかけての「成立に争いのない」の次に「〈書証番号略〉」をそれぞれ加え、九行目の「訴外大平」を「証人大平哲也(以下「大平」という。)」と改める。

二  同一六枚目裏一〇行目から一一行目にかけての「意識がやや混濁して胸部の痛みを訴えている状態で、」を「意識もうろう状態で胸部の痛みを訴え、」と改める。

三  同一七枚目裏三行目を「被控訴人は、脈圧の強弱は診るが、脈拍数は測定しないことにしており、本件の場合も同じである。」と改め、同一八枚目表八行目の次に改行して「そのころ、訴外大平が、被控訴人に対し、レントゲンを撮らないのかと質問したところ、被控訴人は、夜は撮れない、今は安静にしておかないといけない等と答えていた。」を加え、同一一行目の「亡佳孝の」を「亡佳孝が全身で息をするため、体が動いて点滴が外れるおそれがあったので、その」と改め、同一九枚目表二行目の「同人を」から三行目末尾までを「同人を二階の回復室に移動させることとし、同日午後一〇時二〇分ころ、酸素吸入及び点滴装置を外し、看護婦の外、訴外大平にも手伝わせて、亡佳孝を抱きかかえてストレッチャーに移し、大平と看護婦が亡佳孝を二階の回復室に連れて上がり、ベッドに寝かせた。亡佳孝は、上半身を動かされる都度、強く痛みを訴えた。亡佳孝がベッドに寝てから酸素吸入及び点滴が再開された。それが、ほぼ午後一〇時半ころであった。」と、四行目の「一一時少し前ころ、」を「一〇時半を少し過ぎたころ、」とそれぞれ改め、同行の「容体が急変し、」の次に「意識が喪失し、全身で呼吸をし、顔の血の気が引いたようになり、」を加える。

四  同一九枚目裏四行目の「約一〇㏄程度の血性のものを吸引したにとどまった。」を「最初は小さい注射器で、次いで二回にわたって大きい注射器で吸引した。」と改め、同六行目の次に改行して次項を加える。

「(五) ところで、被控訴人は、亡佳孝の死亡直後に作成した死亡診断書には、その直接死因として、腹部内蔵破裂、肺損傷と記載しており、また、そのころ、訴外大平及び亡佳孝の父である控訴人西川省二に、亡佳孝の死因について、肋骨が二、三本折れている、その骨が肺に刺さって肺が出血を起こして死亡した旨説明した。他方、被控訴人は、その後亡佳孝の交通事故について来院した警察官には、亡佳孝の容体について、ほとんど即死の状態であった、運ばれてきた時から意識が朦朧としていた、直接の原因は、内蔵を強く打ったことだ、二時間生きていたのは若い生命力のせいだ等と説明していた。」

五  同一九枚目裏一〇行目の「鑑定の結果」を「鑑定人小澤修一の鑑定の結果」と改め、同二〇枚目裏五行目の「三名」の次に「及び当審証人武澤純」を加え、同六行目の「胸腔穿刺」から同二一枚目表二行目の「すぎないことによると、」までを「胸腔穿刺により吸引されたものが血性のものであったから、血胸があったものと認められ(なお、吸引された分量については、被控訴人は、穿刺により吸引されたものは一〇㏄程度であったと供述するが、前示のとおり、被控訴人は注射器を三回も取代えて胸腔穿刺している事実に照らして、ただちに採用することはできないが、さりとて、〈書証番号略〉に記載の約二〇〇㏄であるとの部分は、訴外大平が医療関係者でなく、かつ友人が死亡するという予想もしなかった事態に直面して動転していたことを総合すると、この記載もただちに採用できない。)、亡佳孝の胸部のレントゲン写真では、右胸の骨折した第五、六肋骨部分に相当する部分で胸腔が約五ミリ程度しか狭まっていないことに照らすと血胸の程度は軽度であったものと推認される。

控訴人らは、右写真は仰臥位であるから背面に血液が貯溜している可能性があり、胸腔の狭まりだけで血胸の程度は判断できないと主張し、鑑定人武澤純の鑑定結果及び同人の証言によると、背面にも血液が貯溜しているから、右のレントゲン写真で胸腔が五ミリ狭まっていると、吸引後も全体では三〇〇ないし五〇〇ミリの血液が貯溜している可能性があるというが、証拠(証人小澤修一)によると、血液が大量になると背面にも血液が貯溜するが、その場合は、その血液の貯溜によって、レントゲン写真では左右の肺の状態に差が現れ、患側肺が真っ白になるか、胸腔の側面での狭まりがある程度の幅を持つが、本件では、右の肺が真っ白になっていることもないし、また胸腔の狭まりも約五ミリにすぎないから、控訴人らの主張に副う右証拠は採用できない。」

六  同二一枚目表九行目の「雲状陰影がもっとはっきり現れること、」を「雲状陰影がはっきり現れるが、本件レントゲン写真では、右の肺葉上部に雲状陰影がわずかに読み取れる程度に過ぎないし、」と改め、同二一枚目裏四行目の「相当である」の次に「(鑑定人武澤純の鑑定結果及び同人の証言も同旨)」を加え、同二二枚目表一行目から三行目にかけての括弧書部分を「すなわち、亡佳孝の左肺は正常であったから、長時間ならいざ知らず、本件のような短時間内では、左肺だけで十分な換気ができ、チアノーゼを発現することは考えられない。」と改め、九行目末尾に「この点につき、控訴人らは、貧血がある場合は、チアノーゼが発現しないと主張し、〈書証番号略〉及び証人小澤修一の証言は、右主張に副うが、亡佳孝が貧血であることを示す証拠はないから、亡佳孝にチアノーゼが発現していなかったことを一つの根拠とする右判断は、左右されない。」を加え、同二三枚目表三行目の「鑑定」を「鑑定人小澤修一の鑑定」と改める。

七  同二三枚目裏一〇行目の次に改行して、次項を加える。

「4 証人武澤純の証言及び同人の鑑定結果では、本件は、肺挫傷の傷害を受けた亡佳孝が、一階の処置室で被控訴人から処置を受けて一旦身体状態が安定して二階の回復室に移った後、間もなく、例えばなんらかの原因から肺に穴が開く、出血等が生じて、既に軽度ながらあった気胸が重篤となり、これに血胸が加わることにより、両者が相俟って心大血管を強く圧迫し、その結果心拍出量が低下し、いわゆる低心拍出量症候群(心原性ショック)を呈して死亡した可能性が高い、そして、このように解すると、容体急変後の亡佳孝がチアノーゼではなく、血の気が引き蒼白になったこと、臨床症状が心タンポナーゼと同様の血行動態と呼吸状態を呈していたことの説明がつきやすいというが、一方では、この考えも、幾つかの仮定を必要とし、推測の域を出ないともいっている。しかし、血胸の程度が重篤でなく、また死後撮影された胸部レントゲン写真では明らかな気胸が認められないことは前示のとおりであり、証人武澤純自身、血胸と気胸とが合併して低心拍出量症候群の事例を経験したことは昔に一例あったように思うというのであって、右見解を直ちに採用することに躊躇を禁じ得ない。」

八  同二三枚目裏一一行目の順番号「4」を「5」と改め、同二四枚目表三行目の次に改行して次項を加える。

「 なお、控訴人らは、当審において、亡佳孝の死因を細かく特定する必要はなく、単に胸部損傷等による外傷性ショックというだけで足りると主張するが、その死亡につき、被控訴人の医療行為に基づく不法行為責任の有無を判断するためには、治療行為と死因との間の相当因果関係を判断する必要があり、その前提として、死亡原因を詳しく特定する必要があると解され、右主張は失当である。」

九  同二四枚目表一一行目の「義務がある」の次に「(頻回のバイタルサインのチェックが必要であることは当事者間に争いがなく、早期のレントゲン撮影が必要であることは、〈書証番号略〉鑑定人小澤修一、同武澤純の各鑑定の結果から明らかである。)」を加え、同二六枚目裏三行目の「近藤の三証人」を「近藤、武澤の四証人」と改め、同二七枚目裏三行目及び二八枚目表三行目の「及び」の次にそれぞれ「その」を、同枚目表一行目の末尾に「なお、武澤証言及びその鑑定結果によれば、容体急変後は、気管内挿管が絶対必要であるというが、一方、亡佳孝には、容体急変後も、呼吸障害がないというのであるから、気管内挿管を欠くからといって、過失があるとまでいうことはできない。」をそれぞれ加える。

一〇  同二八枚目裏五行目から同二九枚目表一一行目末尾までを次項のとおり改める。

「3 右に見てきたところによれば、本件のように、亡佳孝の治療に関する客観的な資料が、僅かに、簡単に記載されたカルテと死後に撮影されたレントゲン写真のみといった状況の中で、その具体的な死因を特定することは極めて困難であって、前説示のとおり、本件証拠上、亡佳孝の直接的な死因が特定されないのであるから、一面では、控訴人ら主張の過失と亡佳孝の死亡との間に直接的な相当因果関係を認めることはできないということができる。これを前提にすれば、前記認定のとおり、被控訴人には、亡佳孝のバイタルサインの経時的観察及びレントゲン撮影を怠った過失が認められるものの、このことから、直ちに、亡佳孝の死亡との間に相当因果関係を認めることはできないということもできよう。

しかしながら、被控訴人が、バイタルサインをチェックし、容体が安定した時にレントゲン撮影をしておれば、血気胸の存在の有無、心タンポナーゼの予兆となるベックの三兆候(血圧低下、頚静脈圧上昇、心音微弱)のうちの血圧低下、心音微弱の把握、肺挫傷の程度、骨折の有無、その箇所、呼吸障害の前提となる気管、気管支損傷の有無、程度、体内での出血の有無、程度及び出血の箇所等を知ることができたものということができ(〈書証番号略〉、証人小澤修一、同近藤孝、同武澤純、鑑定人小澤修一、同武澤純の各鑑定結果)、しかも、これらの措置は、事柄の性質上、交通事故における救急医療に携わり、人の生命及び健康を管理する業務に従事する医師として、当然とるべき基本的な措置であり、かつ、その措置をとるにつき著しい困難を伴うものではないことは、優に推認することができる。

本件では、亡佳孝の容体急変前に、被控訴人において、バイタルサインのチェックやレントゲン撮影(以下「レントゲン撮影等」という。)を行う余裕があったのにこれをしなかったことは、前示のとおりである。そして、レントゲン撮影等から得られたことを前提に治療方針を決定することになるが、この点に関し、〈書証番号略〉及び近藤証言によれば、救急治療の場においては、時期を逸せずに正確な診断と迅速な措置をとることが必要であるところ、本件では、レントゲン撮影等を怠ったことが、その後の処置の遅れとなって、血圧測定不能になったことが推認されるというのであり、また、鑑定人武澤純の鑑定結果及び同人の証言によれば、本件では、死因が判明しないから、救命の可能性を論ずることは原理的に無理があり、したがって、いくつかの死因を想定し、仮定の下にこれを論ぜざるを得ず、取るべき措置についても同様なことがいえること、しかし、本件において、少なくともレントゲン撮影等を行っておれば、それらを行わないよりは救命の可能性があったと考えられること、具体的には、血圧、脈拍数、呼吸状態の変化、尿量を定期的にモニタリングしておれば、亡佳孝の急変をもう少し事前に予測できたと思われること、レントゲン撮影を行い、血気胸の有無が前以て診断されておれば、亡佳孝の急変時の処置がより的確に行い得たものと思われ、救命の可能性が考えられること、しかし、仮に、これらをすべて行っていたとしても、死因が不明である以上、救命の可能性があったかどうかは、厳密には不明であること、との指摘がある。

ところで、被控訴人は、亡佳孝の死亡直後に、その死因を明らかにするために、同人の胸部レントゲン写真を三枚、腹部レントゲン写真を二枚それぞれ撮影していることは、前記認定のとおりであるが、証人武澤純の証言によれば、右レントゲン写真は、いずれも仰臥位であって(肺に死因につながる重大な原因があったのではないかとの疑問の下に撮影したものと推定される。)、血胸等を確認し、出血量等を確定するための撮影体位としては極めて不適切なものであることが明らかであり(適切な撮影体位としては、患部側を下にして、斜めにして撮影しなければならない。)、前記認定の経緯からも明らかなように、右五枚のレントゲン写真が亡佳孝の死因解明の資料として十分に活用できないようなものであることも窺われるところである。

右事実に、レントゲン撮影等を適切に行っておれば、亡佳孝の胸部、腹部等の損傷、出血等の有無、程度の把握が可能であったということと、これらに加えて、死因が不明な状況の中で、本件についての救命の可能性に関する前掲各証拠を総合して勘案すれば、被控訴人が亡佳孝の容体の急変前に、適切なレントゲン撮影等を行っておれば、亡佳孝の胸部、腹部等の損傷、出血等の有無、程度を把握できたであろうことは推認に難くなく、同人に対する治療処置も適切に行われることも期待できたと解することもでき、したがって、この意味では、仮に、被控訴人が適切なレントゲン撮影等を行ったとしても、全く救命の可能性がなかったとまでは断定することはできないといえよう。換言すれば、前記認定の、本件における被控訴人の亡佳孝に対してとった措置等の経緯に照らせば、レントゲン撮影等を行っておれば、次にとるべき措置も期待できたということができ、救命の可能性があったものと推認するのが相当である。そうだとすれば、レントゲン撮影等を行っていれば、それが確定的なものでなく、可能性にとどまる程度のものであるにせよ(その可能性の程度が低いものであるとしても)、救命の可能性があったと推認できる以上、そのレントゲン撮影等の処置をとらなかったことと、亡佳孝の死亡との間に相当因果関係を認めるのが相当である。

確かに、死因が特定されない場合に、医療行為上の過失とされる行為と死因との間に相当因果関係を認めることは、一般的には躊躇せざるを得ない。すなわち、死因が特定されない以上、とるべき救命のための具体的な医療行為が特定できず、したがって、救命の可能性を論ずることは、原理的に困難であり、その意味では、過失とされる当該行為と死因との間の相当因果関係を認めることもできないであろう。

しかしながら、本件のように交通事故における救急医療の場において、事故直後の対応に際して、最も基本ともいうべきレントゲン撮影等を怠る過失があり、これらを怠たらなければ、亡佳孝の容体の適切な把握の可能性も窺われ(前記のとおり、被控訴人は、亡佳孝の死亡直後に作成した死亡診断書には、腹部内蔵破裂、肺損傷と記載し、控訴人西川省二らには、肋骨が折れ、それが肺に刺さって肺から出血して死亡した旨、また、警察官にはほとんど即死状態であったと説明しており、亡佳孝の容体の把握に混乱をきたし、的確性を欠いていたことの一面も窺えなくはない。)、次の措置も期待できる状況にあり、しかも、救命の可能性が全く否定できないものとすれば、前記認定のとおり、レントゲン撮影等を怠った過失と亡佳孝の死亡との間に相当因果関係を認めるのが相当であり、前記一般的な場合と同様に解することは許されないものというべきである。

この点に関し、〈書証番号略〉(医師千種弘章の意見書)には、レントゲン撮影をしておれば、亡佳孝の急激な病状憎悪を回避できたかについて、一般論としては、患者の状態が許す限り、レントゲン検査を施行すべきであることは当然である、しかし、結果論であるが、仮にレントゲン検査を行っていたとしても、死後に撮られたレントゲン写真からも亡佳孝の死亡に直結する明確な所見は得られないのであるから、後の急変を予測するような所見や情報は得られなかったと思う、したがって、レントゲン検査を行っていたとしても、その後の治療方法が変わったとは思えないとの記載があるが、前記のように、死後に撮られた亡佳孝のレントゲン写真は、治療を目的として撮影されたものではなく、しかも、その撮影の体位も、胸部の血胸等を確認し、出血量等を確定するための体位としては極めて不適切なものであったことが認められるところであるから、右不適切なレントゲン写真からの判断を記載した右意見書の存在も、右認定を左右するものではない。また、鑑定人小澤修一の鑑定結果には、症状が改善した時点で、胸部及び腹部のレントゲン撮影をすべきであったと考えられるが、結果的には、治療内容を変更すべき所見が得られておらず、救命できなかったものと考えられるとの記載があるが、その記載から明らかなように、結果的に治療内容を変更すべき所見がないというにとどまっているのみならず、同人の証言中には、同人作成の鑑定書の記載部分に関連して(死後に撮られた亡佳孝のレントゲン写真を見たら、治療として放置するのかとの質問に対し)、救命できたかどうかは不明であるとの前提に立ちながら、輸血の手配をするし、呼吸の補助については、バイタルサインをチェックして、バックマスクよりは気管内挿管を考える旨の証言があり、これからすると、前記鑑定書の存在も右認定を動かすものではない。

以上のとおり、被控訴人には、レントゲン撮影等を怠った過失があり、右過失と亡佳孝の死亡との間に相当因果関係があることが明らかであるから、亡佳孝の死亡によって発生した損害を賠償すべき義務がある。

四 損害について

1  証拠(〈書証番号略〉、証人大平)及び弁論の全趣旨(原審記録に添付の控訴人西川省二の戸籍謄本を含む。)によると、亡佳孝は、昭和三六年九月二一日生まれの健康な男性で、昭和六〇年三月に大学を卒業し、同年四月に鈴木自動車工業株式会社に入社し、自動二輪車の設計業務に従事していたことが認められる。

(一) 逸失利益

亡佳孝は、死亡時(昭和六〇年八月三〇日)二三歳であり、昭和六〇年度の賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計の旧大・新大卒男子労働者の二〇歳ないし二四歳の平均給与額は年額二四七万四四〇〇円であり、六七歳までの四四年間は就労が可能であったと推測されるから、右年収額から生活費として五割を控除し、ホフマン式計算法により中間利息を控除する(ホフマン係数は、22.9230)と、逸失利益は、二八三六万〇三三五円となる。

(二) 慰藉料

本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、慰藉料は一三〇〇万円が相当である。

2  前記戸籍謄本によると、控訴人らは、亡佳孝の両親であることが認められるから、控訴人らは、相続により、亡佳孝の損害賠償請求権を各二分の一ずつ取得することになり、また、自動車損害賠償責任保険から二五〇〇万円及び交通事故の加害者である神瀬益美から二〇〇万円を受領したことは、当事者間に争いがないから、これを右損害金に充当すると、残額は一四三〇万〇七三五円となる。

3  弁護士費用のうち、被控訴人の過失と相当因果関係にあるのは、一五〇万円が相当である。

4  以上の次第で、被控訴人は、民法七〇九条に基づいて、控訴人各自に対し、七九三万〇一六七円及びこれに対する不法行為の日である昭和六〇年八月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。」

第五  結論

控訴人らの本件請求は、右認定の限度で正当であり、その余の請求部分は、理由がない。

よって、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、民訴法九六条、八九条、九二条、九三条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田畑豊 裁判官熊谷絢子 裁判官小野洋一は填補につき、署名捺印できない。裁判長裁判官田畑豊)

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